個人版事業承継税制について
1 はじめに
2019年度の税制改正法案が、3月27日に国会で成立しました。
今後しばらくは税制改正法案の注目点について述べさせていただきます。
今回はその中でも大きな新設項目である、「個人版事業承継税制」について簡単に
述べさせていただきます。
2 概要
(1) 対象者
下記の要件を満たす必要があります。
① 贈与により引き継ぐ場合
・ 認定受贈者 ( 贈与の時において、2019年1月1日から2022年3月31日までの間の贈与に
ついては20歳以上、2022年4月1日から2028年12月31日までの贈与については18歳以
上 ) であること。
なお、贈与をする方がその年の1月1日に60歳以上の場合には、贈与をする方の直系卑
属 ( 子や孫 ) である推定相続人以外の方が贈与を受けても、相続時精算課税の適用を
受けることができます。
・ 贈与の時において、この税制の対象となる特定事業用資産 ( (2)で説明します )に係る
事業か同種の事業に3年以上従事していること
・ (3)で説明する承継計画の提出と経営承継円滑化法による認定を受けること
② 相続により引き継ぐ場合
イ) 上記の贈与をした方が亡くなられた場合
都道府県の確認をうければ、相続税についても納税猶予が受けられます。
ロ) 直接相続により引き継ぐ場合
認定相続人 ( (3)で説明する承継計画の提出と経営承継円滑化法による認定を受けた
相続人の方 ) であること
(2) 特定事業用資産
相続又は贈与をした方の事業の用に供されていた資産で、次のものをいいます。
・ 土地 ( 400㎡以下 )
・ 建物 ( 800㎡以下 )
・ 機械、器具備品
・ 車両運搬具
・ 生物 ( 乳牛や果樹など )
・ 無形償却資産 ( 特許権など )
なお、青色申告で決算書の貸借対照表に計上されていることが要件になります。
不動産貸付業などはこの制度の対象外ですので、アパート・マンションやその敷地などは適用
を受けることができません。
(3) 承継計画と認定
2019年4月1日から2024年3月31日までに認定支援期間が所見を添付した「承継計画」を予め
都道府県に提出し ( その承継計画に財産を引き継ぐ方が後継者である旨の記載が必要です ) 、
相続又は贈与の際に経営承継円滑化法に基づく認定を都道府県から受ける必要があります。
(4)納税猶予
① 贈与税
2019年1月1日から2028年12月31日までの間に、贈与により特定事業用資産を取得し、
事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、その贈与を受けた方が納付すべき
特定事業用資産に係る贈与税額を全額納税猶予します。
つまり、贈与の時における納税負担は繰り延べられます。
なお、贈与した方が亡くなられた場合は、特定事業用資産をその贈与した方から相続など
により取得したものとみなして、贈与時の時価を基に相続税を計算します。その際、都道
府県から確認を受ければ、相続税の納税猶予も受けられます。
② 相続税
2019年1月1日から2028年12月31日までの間に、相続などにより特定事業用資産を取得
し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、その相続などを受けた方が
納付すべき特定事業用資産に係る相続税額を全額納税猶予します。
つまり、相続の時における納税負担は繰り延べられます
(5) 猶予税額の免除又は納税
相続又は贈与によりこの制度による納税猶予の適用を受けた方が亡くなられた場合、亡く
なられるまでその対象となる事業を継続していた場合などには、納税猶予を受けた相続税
又は贈与税が全額免除になります。
また、相続税又は贈与税の申告期限から5年経過した後に、次の後継者の方に特定事業用
資産を贈与して、その後継者の方が贈与税の納税猶予の適用を受ける場合も、納税猶予を
受けていた相続税又は贈与税が全額免除になります。
一方、対象となる事業を廃業した場合 ( 一定のやむをえない理由が生じたため事業を継続
できなくなった場合を除きます ) や、特定事業用資産を売却した場合などは納税猶予を受
けた相続税又は贈与税を納付する必要があります。
なお、相続税又は贈与税の申告期限から5年経過した後に、特定事業用資産の全てを現物
出資して会社を設立した場合には、納税猶予を継続することができます。
納付する場合には、利子税を合わせて納付する必要があります。
3 注意点
(1) 青色申告の承認
相続又は贈与によりこの税制の適用を受ける方は、相続税又は贈与税の申告期限において、
所得税の青色申告の承認を受けていなければなりません。
(2) 期限と承認計画、経営承継円滑化法による認定
2019年1月1日から2028年12月31日までの10年間に行われる相続又は贈与が対象です。
「2 概要」の(3)で記載した通り、2019年4月1日から2024年3月31日までに「承継計画」を
予め都道府県に提出し、その後、経営承継円滑化法に基づく認定を都道府県から受ける必要が
あります。
(3) 不動産貸付業などが対象外
「2 概要」の(2)で記載した通り、不動産貸付業などは対象外ですので、アパート・マン
ションやその敷地などは適用を受けることができません。
(4) 継続届出書の提出
相続税の申告期限から3年ごとに、税務署に継続届出書を提出する必要があります。
(5) 小規模宅地等の特例との選択
この制度は、相続税の小規模宅地等の特例とは選択適用になっています。
つまり、土地について特定事業用資産としてこの制度を受ける場合には、その土地は小規模
宅地等の特例の適用を受けることができません。
4 終わりに
事業用の土地・建物などの、評価額によっては大きな相続税又は贈与税の負担を伴わないと引き
継ぐことができなかった財産を、納税猶予を受けて引き継ぐことができるようになりました。
承継計画に認定支援機関の所見が必要ですので、事前に認定支援機関 ( 会計事務所や金融機関、
商工会議所など ) にご相談ください。