適格請求書について
1 はじめに
2019年10月1日から、消費税の増税と軽減税率が導入されました。事業を営まれている方や職員
の方は、レジなどの対応や経理処理などでお忙しいことと思われます。
前回こちらで軽減税率に伴い導入された区分記載請求書の説明を行いました。
今回は、4年後(2023年10月1日以後)導入予定の適格請求書等保存方式について、区分記載請求
書との比較や注意点などを簡単に説明させていただきます。
2 適格請求書
(1)区分記載請求書との比較
前回触れました通り、区分記載請求書には、下記の記載事項が必要です。
①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称 (注)
⑥軽減税率の対象品目である旨
⑦税率ごとに区分して合計した税込み対価の額
(注) 小売業、飲食店等不特定多数の方と取引する事業者が交付する際、⑤は省略可
これが適格請求書では、①に後程ご説明する登録番号を追加で記載する必要があります。
また、⑦に適用税率を記載し、消費税額を記載する必要があります。
なお、区分記載請求書では⑦は税込みの額を記載することとされていますが、適格請求書
では税込みまたは税抜きのいずれかの額を記載することができます。
これをまとめると下記のようになります。
①請求書発行者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称 (注)
⑥軽減税率の対象品目である旨
⑦税率ごとに区分して合計した税込みまたは税抜き対価の額及び適用税率、消費税額
(注) 小売業、飲食店などの場合、区分記載請求書と同様⑤は省略可
登録番号は2023年10月1日以降でないと記載できませんが、それ以外の項目を適格請求書
の要件を満たす形で記載すれば、区分記載請求書の要件を満たすことになります。
従って、2019年10月以降の請求書は適格請求書の要件を満たしていれば、区分記載請求書
として交付、受領して仕入税額控除を行うことができます。
(2)適格請求書発行事業者
①概要
適格請求書を発行するためには、課税事業者が、自ら税務署長に申請し、適格請求書発
行事業者の登録を受ける必要があります。申請をして、登録拒否要件に該当しなければ
登録番号が交付されます。
登録番号は、法人の際はローマ字の「T」に13桁の法人番号をつけたものになります。
個人事業者や人格のない社団等については、マイナンバーは使わず、新たに番号が割り
振られます。
②申請
イ)通常の課税事業者
申請の受付は、2021年10月1日に開始します。2023年10月1日に適格請求書等保存
方式が開始されますが、その日に登録を受けるためには、2023年3月31日までに登
録申請書を提出する必要があります。(宥恕規定はありますが、認められない恐れも
ありますので、2023年3月31日までにご提出ください。)
ロ)新設法人等の特例
新たに設立した法人が、事業を開始した日の属する課税期間の初日から適格請求書発
行事業者の登録を受けるためには、その課税期間の末日までに登録申請書を提出する
必要があります。
新設法人が免税事業者である場合には、課税事業者選択届出書と登録申請書を合わせ
て提出することが必要です。
ハ)免税事業者の場合
個人事業者や以前から事業を継続している法人の免税事業者が適格請求書発行事業者
の登録を受けるためには、課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者になる必要が
あります。
ただし、免税事業者が2023年10月1日の属する課税期間に登録を受ける場合には、
課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。
2023年3月31日までに登録申請書を提出すれば、2023年10月1日に登録され、適格
請求書発行事業者である課税事業者になります。
いっぽう、2023年10月1日の属する課税期間の翌課税期間以後に登録を受ける際は、
適用を受けようとする課税期間の初日の前日から1月前の日(例:課税期間の初日が
1月1日なら、その前年の11月30日)までに、課税事業者選択届出書及び登録申請書を
提出する必要があります。
ニ)登録の取りやめ
適格請求書発行事業者は、税務署長に「登録取消届出書」を提出することにより、
登録の効力を失わせることができます。
翌課税期間から登録を取りやめたい場合には、当課税期間の末日から起算して30日前
の日までに登録取消届出書を提出する必要があります。
その日を超え、課税期間の末日までに提出した場合には、登録の取りやめが翌翌課税
期間になってしまいますのでご注意ください。
ホ)事業者免税点制度(注)との関係
免税事業者は適格請求書発行事業者になることができません。また、適格請求書発行
事業者には、事業者免税点制度は適用されません。
従って、適格請求書発行事業者は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下になって
も、取りやめの手続きを行わない限り、免税事業者になることはできません。
(注) 事業者免税点制度…課税事業者の基準期間における課税売上高が1,000万円以下
になった場合、免税事業者になる制度(課税事業者選択届出書を提出して課税事
業者になった場合は課税事業者選択不適用届出書を提出する必要があります。)
(3)注意点
①適格請求書類似書類等の交付の禁止
適格請求書発行事業者が偽りの記載をした適格請求書等を交付することや、適格請求書
発行事業者でない事業者(免税事業者や、課税事業者でも登録申請を行わなかった事業
者)が適格請求書と誤認される恐れのある表示をした書類の交付をすることは禁止され
ています。
②仕入税額控除を受ける際の注意
従来の請求書や、2019年10月~2023年9月の区分記載請求書は免税事業者でも発行す
ることができます。仕入税額控除を行う場合には、請求書の発行者が課税事業者か免税
事業者かに関わらず、必要事項が記載されていればよいのです。
2023年10月以降の適格請求書等保存方式においては。交付を受けた請求書が適格請求書
かどうかを確認する必要があります。
国税庁HPに適格請求書発行事業者が公表される予定ですが、そこに記載されていない
事業者から受けた(登録番号の記載がない)請求書は、適格請求書ではないので、仕入税
額控除の対象から除外しなければなりません。
ただし、免税事業者からの課税仕入れでも、区分記載請求書の要件を満たしていれば、
1) 2023年10月1日~2026年9月30日 … 80%
2) 2026年10月1日~2029年9月30日 … 50%
の割合で仕入税額控除を受けることができます。
適格請求書発行事業者が公表されるため、免税事業者と知らずに仕入税額控除を行った
ということは認められません。従来から取引を行っていて課税事業者であると確信が持
てる取引先以外との取引の際には、念のため適格請求書発行事業者であるかどうかの確
認を行う方が安全です。
3 おわりに
適格請求書を発行することができるのは2(2)で説明した通り、事前に登録した課税事業者
に限られます。
現在免税事業者の方は、2023年3月31日までに登録申請書を提出して課税事業者になる
か、免税事業者を続けるかを選択する必要があります。
取引先からの要請があることも考えられますので課税事業者を選択される方も多くいらっ
しゃると思いますが、課税事業者になると当然消費税の納税義務が発生し、税額を負担す
る必要がありますので、選択を検討される際には会計事務所などにご相談ください。