家族信託について②
前回に引き続き、家族信託についての解説です。
今回は主に、家族信託の概要、メリットや注意点についてご説明致します。
4 家族信託 ( 自益信託 )
(1) 概要
財産をお持ちの方が、そのお持ちの財産を、元気な ( 意思表示ができる ) うちに家族に
託し、管理・処分を任せる財産管理です。
財産を託した方を「委託者」、託された方を「受託者」、その財産から生じる利益を受ける
方を「受益者」といいます。
これから主に述べる家族信託は「委託者」=「受益者」ですので、自益信託といいます。
自益信託では、信託を行った時点での贈与は発生しませんので、贈与税の申告は不要です。
一方、家族信託でも、信託を行った時点で、受益者を所有者以外の家族の方にする、他益
信託もあります。
他益信託では、信託を行った時点で贈与が発生するので、贈与税の申告が必要になります。
自益信託の例として、親がお持ちのアパートを、お子さんのうち一人を受託者として設定
して管理をしてもらい、受益者は親である、という例があります。
受益者は親ですので、所得税の申告は、信託開始前と同様に親が行います。
(2) メリット
① 委託者が意思表示できなくても不動産の売買などが可能
先ほどの親が委託者で子が受託者であるアパートの例では、信託設定後に親が認知症など
になって意思表示ができなくなっても、大規模修繕や賃貸、売却などをすることが可能に
なります。
それには、不動産を信託財産にしたときに、登記をすることが必要です。不動産を信託
財産として登記すると、所有権移転の原因として、「信託」と記載され、所有者が受託
者に移行します。委託者、受託者、受益者に関する事項などが登記簿に記載されます。
上記のように、所有権が移転されていることにより、第三者に対抗でき、売買することが
可能になります。信託設定後は、売買契約などは受託者が契約を行うことになります。
なお、その売買により、利益がでた場合、その売却益は受益者が取得し、所得税の確定
申告も受益者がすることになります。
② 毎月の費用は発生しない
家族が受託者になって管理するため、成年後見制度で後見人に支払うような費用が発生
しません。 ( 最初に信託を設定する際に司法書士などの専門家にコンサルティングを
してもらう場合、その費用は発生します )
③ 裁判所の許可が不要
成年後見制度は家庭裁判所の許可が必要ですが、家族信託は家族の間での信託契約です
ので、裁判所の許可が必要ありません。
また、家族の間の契約ですので、合意があれば、解約や変更も容易です。
④ 複数世代にわたって受益者を指定することが可能
将来の相続時にもめないように、遺言書を作成しておく、という方法があります。
広く知れており、実際に多くの方が実行されています。
ただ、遺言書には問題があります。相続が発生して、初めて効力が発生する点です。
財産を遺言書によって生前に引き継ぐことはできません。
また、遺言書によって指定することができるのは一回の相続に関する遺産分割のみです。
例えば、お父さんが、自分が亡くなった後、お母さんが亡くなった際の分割について
決めることはできません。
一方、家族信託では、受益者を複数世代にわたって指定することが可能です。
例えば、お父さんがお子さんの一人を受託者に設定し、自分の生前は自分を受益者に、
その次はお母さんを受益者に、お父さんとお母さんが亡くなったら信託を終了し、
受託者だったお子さんに相続させる、と設定することで、お子さんが複数いても、
お父さんが継がせたいお子さん一人に財産を引き継ぐことができます。
さらに、孫世代やその先まで信託を設定して、確実に財産を引き継いでもらうように
することもできます。
また、受益者を前もって指定しておくことによって、上記の例でお母さんが受益者に
なる前やなった後に意思表示ができなくなっていても、とどこおりなく受託者である
お子さんが管理を行うことができます。
(3) 注意点
① 受託者の不正
成年後見制度でも後見人が財産を使い込むなどの問題が発生した事例がありますが、
家族信託では委託者も受託者も家族のため、第三者の監視がありませんので、受託者が
不正 ( 使い込みや勝手な財産の処分など ) を行う可能性があります。
その場合、業務上横領罪に問われる可能性もあります。
そのような不正がないように、司法書士や弁護士などに「信託監督人」を依頼して、
監視してもらうこともできます。
② 受益者の設定に注意
既に述べましたとおり、信託の設定時に委託者と受益者が異なる、他益信託を設定する
と、信託の契約時に贈与が行われたとみなされ、贈与税の申告が必要になる可能性が
あります。
また、受益者を法人にすると、受益者である法人は財産の受贈益が法人税の課税対象に
なり、委託者はその財産を譲渡したとみなされ、所得税の申告が必要になる可能性が
あります。
そして、受益者を法人にすると、法人は原則として永遠に継続しますので、信託契約が
終われなくなる可能性があります。
このように、受益者を誰にするかにより、税金の計算上も取り扱いが大きく異なります。
また、受託者を一人だけにすると、万が一、委託者より先に死亡するなどの問題が生じた
場合や、受託者が委託者の意図と異なる管理を行った場合などの対応が難しくなります。
そのため、信託契約を結ぶ際には複数の受託者を設定することが必要です。
5 終わりに
これまで述べてきましたとおり、意思表示ができるうちに家族信託を行うことによって、
成年後見制度に頼らず、財産の管理・処分を信頼できる家族に託すことができます。
また、遺言と異なり、複数世代に受益者を指定することが可能です。
信託と遺言書を組み合わせることで、遺留分の減殺請求に備えることもできます。
ご家族にご高齢の方がいらっしゃる方や、不動産などの分割しにくい財産をお持ちで、
将来の相続に不安をお持ちの方は、家族信託を検討してみてはいかがでしょうか。